OTN近赤外蛍光バイオイメージングシステムの開発 -材料からシステムまで-

1000 nmを超える(OTN: over 1000 nm)近赤外光の波長域では現在バイオメディカルイメージングに用いられている波長域よりも約10倍の透明度が実現します。OTN近赤外蛍光バイオイメージングは曽我研究室が世界に先駆けて取り組む技術開発として、生命現象の解明から医療における診断・治療まで幅広い分野における応用に期待が集まっています。材料工学としては、発光スキーム設計、無機ナノ粒子合成、生体機能分子・高分子とのコンジュゲートが出発点となります。目標は「がん」を小さく見つける、小動物の中でのナノ物質の挙動を追う、細胞の中でのナノ物質の振る舞いを明らかにすることです。国立がんセンター東病院、本学部生物工学科、電子応用工学科、本学生命医科学研究所、理化学研究所、東北大学、大阪大学、名古屋造形大学、島津製作所などとの共同研究により希土類含有セラミックナノ粒子、量子ドットを蛍光体とした蛍光体プローブ開発の材料工学を、細胞、小動物、ヒトの臨床手術のためのデバイスやシステムに至るユーザーに直結した幅広い開発プロジェクトに展開し、「使える工学」の創出を目指しています。

セラミックナノ粒子と高分子の複合による新たなディスプレイデバイスの開発

希土類含有セラミックスナノ粒子は近赤外レーザー光の照射により可視光を発する、「アップコンバージョン現象」を示します。この発光はバイオイメージングにも応用されつつありますが、曽我研究室では希土類含有セラミックスナノ粒子と透明高分子を、屈折率を合わせて複合化することにより、フレキシブル透明アップコンバージョンディスプレイの作製に成功しました。希土類含有セラミックスナノ粒子を使うと、目には見えない近赤外レーザー光を照射することにより可視の三原色(青、緑、赤)を発光することができます。原理的にはこのディスプレイは、波長の異なる2種類の近赤外レーザー光を照射することによって透明3次元カラーディスプレイに発展が可能で、現在は複合体中に導波路を形成することでさらに使いやすく、視認性の高いディスプレイの開発を行っています。このようにセラミックスナノ粒子は高分子にはない特徴的な発光を示す一方、粉のままでは使いにくいという欠点があります。そこで、高分子の持つ透明性、成形性、柔軟性と機能複合することにより、これまでにない新たな原理のディスプレイデバイスの開発を目指しています。

ボロン正20面体クラスター固体の構造と物性

一般的な純ホウ素固体であるβ菱面体晶ボロンは、その構造中にホウ素原子12個からなる正20面体クラスターを含みます。原子番号が5のホウ素はその結合手も5本であるため、正20面体のように5回対称軸を持った構造に良くなじみます。純ホウ素固体は半導体ですが、有名なシリコンやゲルマニウムと異なり、5回対称性を持つ正20面体クラスターを基本構造とした巨大単位胞結晶やアモルファス構造をとります。また、5回対称性を持つクラスターをぴったりと隣接させて三次元周期構造をとることが難しいので、この固体には多くの空隙が存在します。数%の金属元素をこの空隙にドープすると、その性質は半導体から金属に徐々に変化させることができます。この固体では金属結合と共有結合が共存することができます。これらのユニークな構造と電気的性質に加え、複雑なバンド構造にはいまだ未解明なことが多く、これまでの結晶構造の周期性に基づく半導体物性の解釈とは異なる、新たな「クラスター固体」としての物性理解が必要とされています。曽我研究室ではこのユニークな個体群の構造と物性を研究することにより、新たな超電導材料や熱電材料の発見を目指しています。