OTN近赤外蛍光バイオイメージングシステムの開発 -材料からシステムまで-

1000 nmを超える(OTN: over 1000 nm)近赤外光の波長域では現在バイオメディカルイメージングに用いられている波長域よりも約10倍の透明度が実現します。OTN近赤外蛍光バイオイメージングは曽我研究室が世界に先駆けて取り組む技術開発として、生命現象の解明から医療における診断・治療まで幅広い分野における応用に期待が集まっています。材料工学としては、発光スキーム設計、無機ナノ粒子合成、生体機能分子・高分子とのコンジュゲートが出発点となります。目標は「がん」を小さく見つける、小動物の中でのナノ物質の挙動を追う、細胞の中でのナノ物質の振る舞いを明らかにすることです。国立がんセンター東病院、本学部生物工学科、電子応用工学科、本学生命医科学研究所、理化学研究所、東北大学、大阪大学、名古屋造形大学、島津製作所などとの共同研究により希土類含有セラミックナノ粒子、量子ドットを蛍光体とした蛍光体プローブ開発の材料工学を、細胞、小動物、ヒトの臨床手術のためのデバイスやシステムに至るユーザーに直結した幅広い開発プロジェクトに展開し、「使える工学」の創出を目指しています。

蛍光寿命を用いた生体深部の非侵襲的な温度計測方法の開発

希土類含有セラミックス粒子に特定波長の励起光を照射すると、近赤外蛍光が得られます。励起光を照射しているとき、粒子は常に蛍光を発していますが、励起を停止した時点から蛍光は減衰します。この減衰にかかる時間を蛍光寿命と言います。この蛍光寿命には、蛍光体周囲の温度に依存する、すなわち温度依存性があるという特徴があります。よって温度計測への応用が可能です。蛍光体となる粒子を生体内部に配置し、その近赤外蛍光をカメラで撮像し蛍光減衰画像を得ることによって、温度を描出することができます。このように、蛍光寿命を用いることによって、非侵襲的に生体深部の温度を測定することが可能になります。現在は、目的に応じた粒子や測定系の検討、および温度精度の向上を目指しています。また、近赤外光 CT を用いた三次元イメージングと組み合わせて、三次元での温度イメージングへの応用も目指しています。

近赤外ハイパースペクトルイメージングによるマウス肝臓中の脂質濃度および脂肪酸の特徴量描出

ハイパースペクトルイメージング (HSI) は、撮影した画像中の各画素から分光情報を取得することができるイメージング手法です。一般的なRGBカメラでは、赤、緑、青の3バンドの分光情報を画素ごとに取得することで2次元画像を生成していますが、ハイパースペクトルカメラは100バンド以上の分光情報を取得することができます。よって、ハイパースペクトルカメラでは、2次元画像の位置情報に数nmという細かな間隔で取得した分光情報が加わり、データキューブと呼ばれる3次元データを得ることができます。HSIの中でも近赤外光を用いたものが近赤外ハイパースペクトルイメージング (NIR-HSI) です。近赤外域は有機物由来の分子振動の倍音や結合音がスペクトルに現れる領域であることに加えて、生体透過性が高いため、生体深部の分析が可能になります。一方で、取得できる生体組織のスペクトルに目的としない物質のスペクトルが多く混入し、ヒトによる解析的なアプローチが難しいため、近年では機械学習を用いた近赤外スペクトルの解析が行われています。当研究室では、NIR-HSIと回帰的機械学習であるSVRを組み合わせることでマウス肝臓中の脂質濃度や、脂肪酸分子の特徴量である飽和度や分子鎖長の分布を可視化したことが報告されています。今後は、がんなどの肝疾患と特徴量の関係からその発病機序を明らかにすることを目標としています。